
かわら版 No.1507 『ビハインド・ザ・カーブ』
2026/06/29
原油高やナフサ不足を惹き起こしている米国とイランの戦争終結こそ、最も求められている物価高対策です。そもそも波静かだったホルムズ海峡を波高くしたトランプ大統領の責任は重大ですが、イランとの交渉が円滑に進むとは到底思えません。
物価上昇を抑制するためには、「物価の番人」日本銀行の適時適切な金融政策も重要です。その日銀は6月16日、政策金利を0.25%引き上げ、1.0%程度と決定しました。1995年以来、約31年ぶりの高い水準への引き上げです。
今般の利上げは、輸入物価高を助長している行き過ぎた円安を是正する狙いがあったと思います。ところが、16日の利上げ決定後に円高には進みませんでした。むしろ、1ドル=162円に接近する円安水準となっています。
その第1の理由は、日銀に先んじて6月11日、欧州中央銀行(ECB)は約3年ぶりに0.25%利上げしていたことです。クリスティーヌ・ラガルドECB総裁が国際通貨基金(IMF)の専務理事だった頃、国際会議でよくご一緒しましたが、「世界最強の女性30」に選出されるような決断力、指導力のあるリーダーでした。今回もインフレ再燃を警戒して、主要先進国中央銀行の先陣を切り利上げに踏み切りました。
第2の理由は、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に利上げを行うという観測が強まったことです。5月に就任したFRBのウォーシュ議長は、FRBに大幅な利下げを求め続けてきたトランプ大統領が指名した人物です。その新議長がインフレ抑制を重視し、利上げに舵を切ろうとするとは…。
ECBやFRBなど欧米の中央銀行の利上げのペースに比べて、日本は「周回遅れ」でした。その金利差が円安を招いてきました。中東情勢に伴う物価上昇についても、日銀は4月の金融政策決定会合で利上げし、欧米との金利差を縮めておくべきでした。
金融緩和を志向し利上げに慎重な高市政権への遠慮が、物価上昇に対して利上げのペースが追いつかない「ビハインド・ザ・カーブ」に陥らせているのではないでしょうか。為替介入によって一定期間は円安を食い止められますが、その効果の賞味期限は限られています。欧米との金利差という構造問題を解決しなければ、円安に歯止めをかけられません。
中央銀行は政府の下請け機関ではありません。時の政権の顔色を伺うことなく、状況に応じて金融を緩和したり引き締めたりすべきです。中央銀行の独立性の尊重を前提としながらも、政府と日銀の間で緊密な意思疎通を行い、経済ビジョンを共有すべきです。
その意味では2013年1月、安倍政権下で結ばれた政府と日銀の政策協定である共同声明(アコード)は、デフレ脱却をめざしたビジョンでした。金融政策の出口と財政健全化の入口にあたる時、新たなアコードをつくるべきではないでしょうか。