
かわら版 No.1510 『骨太の方針への懸念』
2026/07/21
政府が6月30日、いわゆる「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)の原案を明らかにしました。すると、長期金利が30年ぶりの水準に上昇しました。財政懸念に対する債券市場の警鐘と受け止めるべきです。
懸念材料の1つは、原案に「財政健全化」という言葉が欠落していたことです。最初の「骨太の方針2001」以来、初めての出来事です。「基礎的財政収支」(プライマリーバランス)の黒字化目標も事実上取り下げられました。
もう1つの懸念材料は、官民で370兆円超を投じる成長戦略です。投資対象は17分野に及び、的を絞っていません。あれもこれもであり戦略的ではありません。人口減少・国内市場縮小を背景に企業は海外直接投資は増やしていますが、国内投資には消極的です。自ずと政府支出に大きく依存することになります。
社会保障費の増加は不可避です。防衛費の増加も見込まれます。金利上昇に伴う国債費(特に利払い費)も急増する中、財政拡大要因をこれ以上増やし続けられるのでしょうか。「責任ある積極財政」は、赤字国債を垂れ流しする「無責任な放漫財政」になりかねません。
為替市場も骨太の方針に警鐘を鳴らしています。ドル円相場は原案が公表された6月30日、39年半ぶりの円安水準となる162円台に下落しました。実質為替レート(内外の物価水準の差を調整)で見ると、現在の水準は1971年のニクソン・ショック前の円安水準です。
骨太の方針に「『強い経済』の実現に向けて適切な運営が重要」とする記述があり、日本銀行の利上げへの牽制と受け止められ、円安を助長したと思われます。政府は原案を修正するようですが、インフレの時代に金融緩和を志向する高市政権への市場の懸念は払拭できないでしょう。
黒田前日銀総裁の頃は、円安は製造業や輸出企業にとってメリットがあり、日本経済にもプラスと考える傾向がありました。しかし、円安で収益を上げた日本企業は国内回帰せず、海外からの直接投資も増えていません。行き過ぎた円安による輸入価格の高騰は、国民を苦しめています。
しかも、いま直面しているのは変動相場制を導入した1971年のニクソン・ショック以前の歴史的な円安です。中途半端な円安メリット論の幻想から脱し、通貨危機ともいえる深刻さを直視すべきです。そして、通貨の安定は、究極的には財政の持続可能性という信用力に支えられていることを看過してはなりません。
政府がしっかりと再考した上で骨太の方針を閣議決定しないと、マーケットは警鐘乱打するでしょう。長期金利は3%台に、ドル円相場も170円台になるかもしれません。緊張感をもって注視したいと思います。